「ゆらゆら動く」タンパク質が、研究の世界を広げる

私たちの体は水分を除くと、ほとんどがタンパク質でできています。今まで、体の中でつくられたタンパク質は、堅い立体構造をつくって働いていると考えられてきました。しかし最近の研究で決まった立体構造をもたずに働く、型破りなタンパク質があることがわかったのです。

タンパク質の働きをかたちが決める?

タンパク質は、何百ものアミノ酸がつながった鎖でできています。約20種類あるアミノ酸のうち、どの種類のアミノ酸が、どの順番でいくつ並ぶかによって無限に近い種類がつくられます。体の中のタンパク質は鎖の状態でふらふらしているのではありません。リボソームという細胞の中のタンパク質製造工場でつくられたアミノ酸の連なりは、その後、細胞の中でさまざまな修飾を受け、各々のアミノ酸の化学的性質と反応によって、立体的な構造をとっていきます。こうして折りたたまれた特定の立体構造を形成することで初めて、タンパク質は機能を発揮することができるといわれてきました。

1894年、ドイツのエミール・フィッシャーが酵素の鍵と鍵穴説を発表したのがその概念の始まりでした。酵素というのは、体の中の化学反応を助ける触媒です。基質(化学反応が起こる前の物質)と結合して働くとき、酵素と基質の関係は鍵と鍵穴の関係のように、ぴったりとかたちが合う必要があるのです。さらに、正しい構造をとらないタンパク質は働けないというだけでなく、アルツハイマー病などの神経変性疾患を引き起こすといわれています。折りたたみに失敗したタンパク質は細胞の中で集まり、蓄積します。この役に立たないタンパク質の蓄積が細胞にダメージを与え、細胞を殺してしまうのです。長い間、決まった立体構造をとることは、タンパク質が働くためや細胞が健康であるためにも重要であると考えられてきました。

不規則なかたちでも働く!

ところが、最近になって、決まった立体構造をとらないタンパク質も働いていることが知られるようになりました。このタンパク質は「本来的に不規則な領域」とよばれるアミノ酸配列をタンパク質全体、あるいは部分的にもっており、「天然変性タンパク質」と呼ばれます。参考文献としてあげた『日経サイエンス』の記事では「天然変性タンパク質は、鍋の中で茹でられ絶え間なく動いているスパゲティに近い」と表現されています。細胞の中で、それらは一体どのようにして働いているのでしょうか。

DNAの複製や細胞分裂を調節するリン酸化酵素に結合して、リン酸化酵素の働きをブロックし、細胞分裂を抑えるブレーキとして働く「p27」というタンパク質があります。結合する相手が一緒に存在すると、普段はゆらゆらと動いているそのタンパク質は相手に巻きつくようにして結合することで立体構造を形成します。これは、今までのかっちりとした立体構造をしたタンパク質同士の関係には見られない、特徴的な現象です。この柔軟性が、p27の働きにとても大切なのです。p27は少なくとも6種類以上のリン酸化酵素に結合し、働くことが知られています。

このように、天然変性タンパク質は、結合する相手に応じて自らのかたちを柔軟に変えて結合することによって、ひとり何役もこなすことができるのです。

他にも、DNAから遺伝情報がコピーされるときに働く「転写因子」に天然変性タンパク質が多く見つかっています。たとえば、「CBP」という転写仲介因子はひとりでいくつもの相手と働くタンパク質です。転写活性化因子に結合してDNAから遺伝情報をコピーするお手伝いをするとき、結合する相手のひとつであるCREBがリン酸化していれば結合しますが、リン酸化されていなければ結合しません。しかし、Mybと呼ばれる転写活性化因子には、それがリン酸化していなくても、そのまま結合します。CBPと結合したMybはDNAに結合して転写を活性化し、Mybに関係する特異的な遺伝子を発現させるのです。このように、CBPはきっちりとした立体構造をとらない配列も持つことで、さまざまなタンパク質と結合して働くことができるのです。

柔軟性が働きかける

フィッシャーにより酵素が決まった立体構造をとって働くと考えられてから、約30年後の1926年、アメリカのジェームズ・サムナーが酵素の結晶化に成功して、初めて酵素の実体がタンパク質であるということがわかりました。そして、タンパク質がきちんと働くためにはその鎖がきっちりと折りたたまれて立体構造をとる必要があると結論づけられました。
その約60年後の1999年、アメリカのピーター・ライトらが今度はNMR測定によって、タンパク質が特定の構造を持たずに他のタンパク質と相互作用して働くことを示しました。一部のタンパク質は決まった構造をもたない状態でも柔軟に働くことができるという、これまでの概念を覆すような発見がなされたのです。p27が結合する相手によって柔軟にかたちを変化させることができるということが広く認められることによって、同じように働く天然変性タンパク質の存在が知られはじめました。
私が大学院で研究している二枚貝の一種アコヤガイからも、同じように天然変性タンパク質が見つかりました。他にもヒトやマウスといった脊椎動物だけでなく、ショウジョウバエや酵母などでも見つかってきています。例外であると考えられたこの新しいタンパク質の特徴が、新しい考え方で研究を進め始めました。このように、研究の世界は新しい発見だけでなく、新しい考え方によっても進んでいきます。この柔軟性をもったタンパク質は、私たちにどんな研究の世界の扉を開いて見せてくれるのでしょうか。
【文・高見 晶子(リバネス記者クラブ)】
 

<参考文献>
1) 加藤 龍一 編.入門 構造生物学.共立出版(2010)
2) 西川 健 著.天然変性タンパク質とは何か? 生物物理, 49 ,1(2009)
3) A. K. ダンカー,R. W. クリワッキ 著.西川 健 訳.しなやかなタンパク質.日経サイエンス,第41巻第7号.日経サイエンス社(2011)
4) Galea C.A., et al. Regulation of cell division by intrinsically unstructured proteins: intrinsic flexibility, modularity, and signaling conduits. Biochemistry. 47, 29 (2008)
5) Verkhivker G.M., et al. Simulating disorder-order transitions in molecular recognition of unstructured proteins: where folding meets binding. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 9 (2003)
6) Peter. E., et al. Intrinsically Unstructured Proteins: Re-assessing the Protein Structure-Function Paradigm. J. Mol. Biol. 293 (1999)
7) 江島 洋介 著.図解 細胞周期.オーム社(2008)
8) 中山 敬一 編.細胞周期イラストマップ.羊土社(2005)
9) 中村 桂子 監訳.細胞生物学 原書第2版.南江堂(2005)


本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。

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