治療薬の開発が次の治療薬の開発を妨げる

 

Listening to brain activity?
 

経済学的分析によれば、驚くべきことに、画期的新薬が出ると、その後の更なる新薬開発が難しくなる可能性があるという。なぜなら患者たちは、既存の治療薬よりも新薬の方が優れているかも知れないにも関わらず、新薬を試すよりも既に確立された治療薬を好むからだ。

この分析により、多くの臨床研究者が新薬の臨床試験の参加者を集めるのに苦労していることが明らかとなった。この分析の著者らはこの問題を解決するために、臨床試験の参加者に対する報酬を増額することを提案しているが、これには疑問を呈する臨床医もいる。

全米経済研究所が今月発表したこの分析によれば、HIVに感染した男性の中で臨床試験に参加した人の割合は、1996年にHAARTという抗レトロウイルス薬が発売された途端に急落した。患者たちは、もはやより良い治療薬を求めて臨床試験に参加しようとはしない。

この報告の著者らは、各疾患の治療法を著明に改善する新薬が出た場合にはいつでも同じような問題が起きて、創薬の生産性が下がるだろうと言う。今日の革新的新薬は、次の革新的新薬の開発を難しくする。それは、次世代の薬にかかる費用は上昇するということを意味する。

HAARTは他に選択肢のない患者たちにとって治療上の革命であったが、今回の分析によれば、他の疾患においても治療薬の進歩は 臨床試験への参加に影響する。10年前にはFDAに認可された腎臓の癌の薬は1つしかなかったが、今は7種類存在し、この疾患について研究している臨床家たちは次の臨床試験のための患者を集めるのに苦労している。「患者たちに取って多くの選択肢があるので、彼らは以前のようには臨床試験に参加しようと群がってこない」と癌専門医は言う。

充分な人数の参加者を集められないというのは、臨床試験を中止する理由としては良くあるものである。また、充分な人数を集めるのが難しいというのは、多くの製薬企業が臨床試験を発展途上国でどんどん行うようになっている理由でもある。発展途上国では、インフラと労働力が安価である上、患者たちは限られた選択肢しかなく、高価な薬を試すために臨床試験に喜んで参加するからだ。

アメリカでは、薬の安全性を調べるために健康なボランティアに報酬を支払って試験に参加してもらうのが普通である。しかし、薬の効果を病気の患者で試すとなると、支払われるのは交通費や駐車料金などの臨時費に限られる。実は、それらの参加者たちに支払われる対価は低すぎるのではないかという報告もある。調査員や倫理委員たちは、臨床試験に参加する間子供を預ける費用や仕事を休んだりといった参加者の負担を実際よりも低く見積もる傾向がある。

しかし、報酬を引き上げると、病気の患者たちを必要以上に誘導してしまうことになると警戒する人もいる。これは、ヒトにおける研究を管理するアメリカの規則で禁止されていることである。そこにはモラルのジレンマがある、と著者らは認める。「我々は人々に、カーレースのドライバーになってその代わりに割増の報酬を受け取ることを許可するが、誰かが病気でそういう種類の決断を使用とする時には注意しなくてはならないと思う。」と彼らは言う。

先述の癌専門医は、臨床試験の参加者を集めるのが難しいにもかかわらず、「解決方法は必ずしも患者により多くの報酬を支払う事ではないと思う」と言う。しかし、他の人々は、お金は必ずしも強制力とはならないと言う。ある精神科医は、「必要以上の誘導に対して必要以上に懸念されている。報酬を支払うことが強制力になってしまうのではないかと過剰に懸念されすぎていると思う。」という。

正当な報酬を患者に支払うことを拒否するのはある意味偽善だとある腎臓専門医は言う。臨床試験を実施する臨床医は名声を得たり結果を発表したりできる立場にあり、彼らはしばしば、臨床試験に患者が1人参加するごとに報酬を受け取っている。研究所も臨床試験を実施することにより金銭的サポートを受けている。最終的には、その臨床試験をすることによる利益はそのために必要な努力と時間を上回らなければならない。私たちは研究者として、もしその研究をしても何も得られないのであればその研究はしない。と彼女は言う。

今回の経済学的分析の著者は、この問題を持ち出した時には、自分たちが倫理の地雷原に踏み込みつつあるとわかっていたと言う。しかし、薬の開発を遅らせることもまた、倫理的に問題がある。我々は新薬の開発が遅れることにより誰が苦しむのかを考える必要がある。

Malani, A. & Philipson, T. Can Medical Progress be Sustained? Implications of the Link Between Development and Output Markets (NBER, 2011); available at http://www.nber.org/papers/w17011.


本記事は、BioMedサーカス.com – 医学生物学の総合ポータルサイトの「最新研究動向」を転載したものです。

Creative Commons License photo credit: deadstar 2.1
■関連リンク
喫煙衝動を司る脳の神経回路を発見、タバコ依存から脱する新しい禁煙治療の可能性 | スゴモリ
ピロリ菌からのコレステロールがぜんそくの予防薬に、マウスでの実験で確認-筑波大学 | スゴモリ
インスリンがアルツハイマー予防となる可能性 – ニューヨーク州立大学 | スゴモリ
唾液は身近な治療薬 | スゴモリ
市場に出回っているのは多剤耐性菌が潜んだ肉、どうすれば? | スゴモリ

Bookmark and Share

関連プロダクトクラウド

  • Gmail

    患者本位ではなく、医者本位な記事だな。