ヒトも磁場を「見る」ことができるか-米・マサチューセッツ医科大学

 

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渡り鳥や海がめなど多くの動物は、移動の方角を地磁気から知ると言われている。そのメカニズムとして、現在2つの説が知られている。ひとつは、体内に小さな磁石があり、それが磁場に反応するのを検出しているのではないかという説。もうひとつは、対を作らない電子をもつラジカルと呼ばれる分子が、磁場に反応しているのではないかという説だ。

後者の説において、ラジカル分子を生成する有力な候補としてクリプトクロムと呼ばれるタンパク質が知られている。クリプトクロムは、紫外-青色帯域に吸収をもつ光感受性タンパク質で、網膜の桿体(かんたい:rod)細胞に存在している。そのため、米・マサチューセッツ医科大の神経生物学者Steven M. Reppert氏がクリプトクロムを研究し始めた当時は、クリプトクロムは磁場との関わりより、概日リズムとの関わりで有名だった。渡りをする蝶の仲間のオオカバマダラが、移動の方向を太陽の位置から判断するのに、このクリプトクロムのもつ概日リズムの調節機能が関連しているのではないかと、研究を開始したのだ。

しかし、今世紀になりクリプトクロムの磁場検知への関与が示唆され始めたことや、オオカバマダラが太陽の見えない日でも方角を間違えないことから、Reppert氏は、もしかしたら、オオカバマダラも地磁気を頼りに、渡りをしているのかもしれないと考えたのだ。まずは同じくクリプトクロムをもつ昆虫であるショウジョウバエを使って、クリプトクロムが概日リズム調節メカニズムとは無関係に、しかし、感受できる波長の光が存在するときに限って、ショウジョウバエに磁場検知能力を与えていることを2008年に証明した

次に、一種類のクリプトクロム(I型)しかもたないショウジョウバエに対し、オオカバマダラは脊椎動物がもつII型のクリプトクロムももつことから、オオカバマダラのII型クリプトクロムと、ショウジョウバエのI型クリプトクロムを遺伝子工学的に交換しても、磁場検知能力が失われないことを2010年に証明した

そして、最後に、6月21日付けで『Nature Communications』に掲載された今回の論文で、ヒトのII型クリプトクロムも、ショウジョウバエのI型クリプトクロムと交換可能であることが示されたのだ。これによってヒトにも、活性のあるクリプトクロムが存在することがわかった。恐らくヒトの場合、クリプトクロムそのものには問題なく、正しく磁場を検出しているにも関わらず、そのあとの磁場シグナルの伝達機構に問題があるのだろうとのことだ。

クリプトクロムが磁場に応答するメカニズムの詳細は不明だが、青色光を受けた際のラジカル分子種生成が磁場の影響をうけ、それがロドプシンなどの他の光感受タンパク質との相互作用を通して、磁場を視覚として与えている可能性が指摘されている。以下の写真は、ドイツ・フランクフルト上空200mの地磁気の分布を可視化したものだ。鳥には、自分の進むべき方向がこのように見えているのだろう。そして、恐らく磁場検知システムを復活できた人間にも。

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(神無 久)

Creative Commons License photo credit: alles-schlumpf

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