iPS細胞の実用化に立ち込める暗雲 – 米・カリフォルニア大学

the needle and the damage done

受精卵を使わないため、倫理的に問題の少ない幹細胞として鳴り物入りで登場した人工多能性幹細胞(iPS細胞)であるが、最近になって徐々に、その期待感に水を差すような研究結果が出始めている。そのひとつが、カリフォルニア大学サンディエゴ校のTongbiao Zhao氏らによって、Nature誌の5月13日付け速報版(印刷版は6月9日号)に掲載された論文だ。

これまで、半ば常識のように語られていたのが、自分自身の細胞から作ったiPS細胞を自分自身に移植(自家移植)しても免疫拒絶されないというものだ。元は自分自身の細胞なので、当たり前といえば当たり前なのだが、それゆえに誰も疑問をもたず、これまでその詳細が検証されることはなかった。しかし、もしこの常識が、間違いだったということになれば、iPS細胞から分化させた細胞を自家移植するという再生医療の根幹を揺るがしかねない事態となる可能性がある。

残念ながらZhao氏らの結果は、その恐れていたことが現実だとはっきり示唆していた。同種間移植(近交系マウスを用いた実験なので、意味的には自家移植とほぼ同じ)されたiPS細胞の実に75-100%が免疫拒絶されてしまったのだ。対照群として、「人工」ではなく「天然」の幹細胞である胚性幹細胞(ES細胞)を同種間移植した場合の免疫拒絶は、皆無だった。

さらに、Zhao氏らは、このiPS細胞とES細胞の免疫原性の違いがどこから来るのかを、詳細に検討した結果、いくつかの遺伝子が、iPS細胞でだけ活性化されており、この遺伝子産物(タンパク質)が直接移植先の免疫T細胞を刺激することで、免疫拒絶反応を誘導することを明らかにした。なぜこれらのタンパク質が、自分自身のタンパク質なのにも関わらず免疫原性をもつのか、その理由は依然として不明であるが、iPS細胞にはES細胞にない、明らかな免疫原性があることだけは、確かなようだ。

しかしながら、ヒトへの応用を考えた場合、だからといってES細胞を使うという選択肢はありえないのだ。ヒトの場合、自分自身のES細胞は、「天然」には存在せず、それを作るためには受精卵を殺さなければいけないという倫理的問題が発生するからだ。

iPS細胞は、常にできのいいES細胞と比較され、さらに近年、その違いが続々と明らかになり、時には厳しい評価を受けることもある。ただその原点に立ち返ったとき、そもそもたった数種類の遺伝子を活性化しただけで、ES細胞とよく似た細胞を作り出せたこと自体、人類の大きな進歩だったのだ。この方法にどこまで固執するかは別として、人類に残された道が、さらにできのいいiPS細胞を作るしかない以上、その挑戦は続くことになるだろう。そしてその成功は、一朝一夕にとはいかないかもしれないが、我々に常に手本にできる、できのいいES細胞がある限り、不可能なことではないだろう。

(神無 久:サイエンスあれこれ

Creative Commons License photo credit: limowreck666
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