魚のあぶらで健康に!

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生臭さが苦手、骨があって食べるのが大変、などの理由で肉料理より敬遠されてしまうことも多いお魚。しかし、じつは食べることで高血圧や動脈硬化などの生活習慣病を予防できるといわれているのです。その秘密は、魚に含まれている「あぶら」。いったい、肉のあぶらと何が違うのでしょう?

エスキモーの食生活に隠された秘密

高血圧や動脈硬化などと同時に生じやすい病気に、心臓への血流が悪くなることで起こる「虚血性心疾患」があります。一般に、脂肪が多く含まれる食生活を続けている人は虚血性心疾患にかかりやすいと言われています。しかし1979年、このことに相反するような事実が報告されました。報告したのはデンマークのJ. Dyerbergと H.O.Bangという科学者です。彼らはグリーンランドの沿岸で生活するエスキモーに対して、食生活や虚血性心疾患の患者数を調査しました。エスキモーたちの食事は、総カロリー中の30~40%が脂肪で占められているというかなり脂っこいものでした。それにもかかわらず、他の地域に住む同じ民族と比較すると、エスキモーたちの虚血性心疾患にかかる割合は非常に低かったのです。その秘密は、エスキモーたちの魚中心の食生活にありました。

魚と肉のあぶらの違い

生き物は体内に油分を多く持っています。私たちが一般に「あぶら」と呼ぶのは、グリセリンに脂肪酸が結合した物質のことです。結合する脂肪酸には炭素の数や二重結合の数などによってさまざまな種類があり、どの種類の脂肪酸をどれだけの割合で持っているかは生き物によって大きく異なります。

図1

魚などの海の生きものに特徴的に含まれるのが、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といった脂肪酸です。前者は20、後者は22の炭素が連なったかたちをしていて、二重結合が末端のメチル基から数えて3つ目の炭素にあることから、n-3系脂肪酸と呼ばれています。陸で生活する動物に多く含まれるのが、メチル基から数えて6つ目の炭素に二重結合があるn-6系脂肪酸。こちらは代表的なものとして、炭素の数が20であるアラキドン酸が上げられます。n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸の違いは二重結合の位置だけですが、これがそれぞれの働きに非常に重要な意味を持つのです。

図2

魚油が体にいい理由

食事によって摂取されたアラキドン酸やEPAは、それぞれが酵素によって変換されます。炭素数20の脂肪酸から生成されるそれらの生理活性物質は、総称してエイコサノイドと呼ばれます。このエイコサノイドが、n-6系からできるものとn-3系からできるもので正反対に働くのです。アラキドン酸(n-6)から合成されるエイコサノイドは、血栓の原因となる血小板の凝集を促進させたり、血管を収縮させたりする働きがあります。血栓は血管が詰まる要因となり、また血管が縮むと血圧が上昇しやすくなるので、虚血性心疾患が生じる危険が強くなります。ところが、EPAからできるエイコサノイドは逆の働きをします。つまり血小板の凝集を抑制し、血管を拡張するのです。また、DHAはEPAに変換されてエイコサノイドになったり、アラキドン酸をエイコサノイドに変換する酵素の働きを抑制したりする働きがあります。EPAやDHAのこれらの働きにより、血栓の発生や血圧の上昇が抑えられ、虚血性心疾患の防止につながると考えられています。

魚を食べて健康になろう! 

哺乳動物は、体内でn-6脂肪酸からn-3脂肪酸を合成する、つまり二重結合を新たにつくることができません。よって、n-3系脂肪酸は食事によって摂るしかありません。しかし2004年、この常識を覆すマウス(ネズミ)が誕生しました。fat-1マウスと呼ばれるこのマウスは、遺伝子組換えによって人工的につくられたものです。線虫のC. elegansが持っているn-6系脂肪酸をn-3系に変換する酵素の遺伝子を導入することで、マウスにその能力を獲得させることに成功したのです。現在このfat-1マウスは、体内でのn-3系脂肪酸の働きを研究するために非常に役立てられています。

エイコサノイドを介したしくみで働く以外にも、EPAやDHAには発がんやアレルギー、炎症などを予防する効果があることが報告されています。実際に、fat-1 マウスは普通のマウスよりも炎症を起こしにくいことや、がんになる確率が非常に低いことが明らかになっています。

同じように見えて、じつはまったく違う働きをもつ魚のあぶらと肉のあぶら。すっかり欧米化して脂っこいものが増えてしまった現代の食生活に、私たちの体が求めているのは前者かも知れません。明日のご飯は、お魚を食べてみませんか。
【文・松尾 明香(リバネス記者クラブ)】

<参考文献>
1) J. Dyerberg, H. O. Bang et al., Eicosapentaenoic acid and prevention of thrombosis and atherosclerosis? , The Lancet (1978)
2) J. Dyerberg, H. O. Bang et al., Haemostatic function and platelet polyunsaturated fatty acids in Eskimos. The Lancet (1979)
3) 伏谷 伸宏 監修.海洋生物成分の利用 -マリンバイオのフロンティア-.シーエムシー出版(2005)
4) Jing X. Kang et al., Fat-1 mice convert n-6 to n-3 fatty acids, Nature, 427 (2004)
5) Jing X. Kang, A transgenic mouse model for gene-nutrient interactions, Journal of Nutrigenetics and Nutrigenomics (2008)


本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。

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