助け合うロボットたち-利他行動の血縁選択説、ロボットで証明される

自分を犠牲にして他人を助ける利他行動は、自分の子孫をより多く残そうとする自然選択説とは一見矛盾するように見えるため、それを説明するのに多くの説が考えられた。その一つが、1960年代に生物学者W.D.ハミルトンによって提唱された血縁選択説だ。この説は、利他行動が血縁度に基づくとするもので、自分が犠牲になることで、たとえ自分の子孫は残せなくても、血縁者を助けることができれば、自分の遺伝子の一部も次世代に継承されることになるから、というのがその理由だ。

利他行動を受けた相手の利益(b)に血縁度(0 < r < 1)を掛け合わせたもの(b×r)が、利他行動を行った自分の被るコスト(c)を上回る(b×r > c)とき、利他行動が進化すると考えられており、これをハミルトン則と呼ぶ。自然界ではこれまで多くの利他行動が観察され、それらが定性的にはハミルトン則に従うことがわかっていたが、定量的に証明した例はなかった。現実の自然界では、利他行動による利益とコストを、何世代にも渡って見積もることが難しかったからだ。

そこで今回、スイス・ローザンヌ大学の生物学者Laurent Keller氏は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のロボット工学研究者らとともに、ロボットによるシミュレーションを試みた。アリスと呼ばれる小さなロボット(2 X 2 X 4 cm:写真)は、自身がもつ2つの車輪によって、1つの白い壁と3つの黒い壁で囲まれた50 cm四方の「エサ場」の中を自由に動き回れる。8体のアリスは、エサに見立てた8つの対象物を押して、白い壁まで運んでくるようプログラムされる。最初から最後まで自力で運んでもいいし(利己的行為)、別のアリスに手渡してもいい(利他的行為)。

各アリスには、うまく運べたエサの数に応じて得点が与えられる。ただし、利他的行為によって運ばれたエサによる得点は、8体のアリスに均等に分けられる。このシステムの優れたところは、8体のアリスそれぞれの行動プログラムを遺伝子型に見立てて、その比率によって血縁度を調節できる点と、その条件下でもたらされる得点という数値を使って、自らの利己的行為や他者からの利他的行為によってもたらされる利益と、他者への利他的行為によって被るコストを定量化できるという点にある。

このシミュレーションの結果、8体のアリスの血縁度が高いほど、より少ない試行錯誤で、より多くの利他的行為を進化させることができた。これによって、血縁度(r)が高いほど、血縁度と利他行動を受けた相手の利益を掛け合わせた値(b×r)が大きくなるため、利他行動で自分が被るコスト(c)を上げてもペイできるというハミルトン則を、定量的に証明することができたのだ。この結果は、5月3日付けで『PLoS Biology』(購読無料)に掲載された。

このように利他行動がロボットでも再現できたことから、自己犠牲とはいっても、悲しいかなその根底にあるのは単純な損得勘定である可能性が示唆されたのである。とは言ってもより複雑な行動心理を進化させてきた人間の利他行動は、それほど単純なものではないだろう。いつの世でも、一見何の得にもならないような自己犠牲が、数え切れないほど多くの美談を生み出してきたのだから。

(神無 久:サイエンスあれこれ

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