結核に新たな治療法の可能性-肺組織を破壊する原因酵素を特定

結核なんて過去の病気と思っている人も多いだろう。確かに現代では抗生物質により治療でき、決して不治の病というわけではない。ただWHO(世界保健機関)の報告によれば、今も世界の人口の約3分の1が結核菌の保菌者であり、そこから毎年900-1000万人の新規罹患者が生まれ、200万人弱がこれによって死亡するという。日本でも、結核罹患率は2008年において、人口10万人あたり19.4人と、10人以下になっている欧米先進国と比べてまだまだ多い。

このように依然として終息しない背景には、抗生物質の効かない多剤耐性菌の出現もあるが、多くの場合、感染しても症状が出にくいという結核の無症候性が問題だと考えられている。その結果、患者の咳とともに大量に放出された痰や唾液に含まれる結核菌によって、結核は静かに、そして確実に感染を広げていくのだ。このため、この咳を抑えることができれば、それだけ感染の広がりを防ぐことができるかもしれないと期待されていた。

結核菌が宿主である人の細胞に寄生すると、身体の免疫システムはその寄生された細胞を排除しようと、寄生された自分自身の細胞を攻撃する。その結果、激しい組織の損傷を起こし、死に至ると考えられている。今回、学術誌『The Journal of Clinical Investigation』の4月25日付けオンライン版に掲載された論文によると、この破壊の直接の原因と考えられる細胞外マトリックスタンパク質分解酵素MMP-1が特定されたのだ。MMP-1の活性を抑制することが結核の有効な対症療法となる可能性があるだけでなく、咳の抑制による感染拡大の防止にも期待できるという。

MMP-1阻害剤は、1990年代に抗がん剤として期待、開発された経緯があるため、すでにヒトで安全性の確かめられた薬剤がいくつも存在し、入手もし易い。ただ、今回の論文ではその効果を、培養細胞を用いた細胞レベルでは確かめたものの、個体レベルでは確かめていない。実際の症状を緩和できるのかどうかが今後の焦点となるだろう。

(神無 久:サイエンスあれこれ

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