常識やぶりの鳥がオーストラリアにいた

 いろいろな情報があふれている現代、進化論の父ダーウィンがビーグル号で航海したときのような発見は、もうないだろうと考えるかもしれません。しかし、私が博士号のための調査を行ったオーストラリアでは、そんな発見があったのです。今までのカッコウ研究の「常識」を覆し、これからのカッコウ研究の方向性に新たな視点を与えることになるだろう発見について紹介します。

自分で子育てをしない鳥「カッコウ」

 鳥も他の動物と同様、子孫を残すために子育てをします。ところが、10,000種くらいいる鳥類のうち100種は、自分で子育てをしません。そして、その子育てをしない鳥類でもっとも盛んに研究をされてきた代表の1種がカッコウです。カッコウの仲間には、自分で子育てをしない種類がいるのです。
 それらのカッコウは、他種の鳥の巣に産卵(托卵)をします。托卵をされた巣の持ち主を「宿主(しゅくしゅ)」と呼びますが、彼らはカッコウの卵に気づかないのでしょうか?宿主の中には、托卵されたタイミング、卵の大きさや色などの手がかりを使ってカッコウの卵を排除する場合もあります。カッコウの卵をこの時点で排除することによって、残る宿主自身の卵を孵化させることができます。
 しかし、そこでお互いの「騙し合い」は終わりません。さらにカッコウは、宿主に気づかれないように托卵のタイミングを合わせたり、卵の大きさ、色や模様などを宿主の卵を似せること(擬態)したりすることで宿主に気づかれないように進化してきました。

宿主の巣を独り占め

 カッコウの宿主らは、卵の段階で托卵に対して対抗策を進化させています。しかし、親鳥よりも大きくなったカッコウの雛に餌を与えている光景を見ると次のような疑問が生まれてきます。
 「なぜ、自分よりも大きくなったカッコウのヒナを宿主は育ててしまうのだろう?」
 卵の段階ではかなりガードの堅かった宿主ですが、カッコウの雛が孵ると育ててしまうのです。タイミングよく托卵されたカッコウの卵は、宿主の卵より早く孵化します。そして、孵化直後のヒナは巣内の卵(必要な場合にはヒナ)を排除し、親鳥のケアを独り占めします。時に宿主の親鳥は、カッコウのヒナが自身の卵を排除しようとするのを傍観していることもあるようです。
 カッコウについては盛んに研究されてきましたが、ひと度カッコウが孵化するとそのまま育ててしまう事例しか報告されてこなかったため、宿主らは卵を識別できても、ヒナを識別する能力はないのだという考えが「カッコウ研究家の常識」でした。

似ていない卵は無視、似ているヒナは排除する

 2003年、卵段階での攻防はないけれどヒナの段階での攻防が進化していることを示す行動がオーストラリアで発見され、『Nature』に論文が掲載されました。今までのカッコウ研究者の常識を覆したのです。
 宿主のルリオーストラリアムシクイは、ブロンズカッコウの卵を受け入れます。その後、巣を独り占めすることに成功したブロンズカッコウのヒナのいる巣を放棄するのです。しかし、この戦略は、卵段階での対托卵戦略と同じ効果が期待できるものではありませんでした。なぜなら、卵段階でブロンズカッコウを排除すれば、その巣に残っている卵を育てられる可能性が残っていますが、ブロンズカッコウのヒナが巣を独占してから巣を放棄するオーストラリアのルリオーストラリアムシクイには、その可能性が残されていないのです。
 ところが2010年、オーストラリアの北部で新たな発見がありました。宿主であるセンニョムシクイ2種には、アカメテリカッコウの卵を排除または、托卵された巣を放棄する報告はありません。その代わり、アカメテリカッコウのヒナを孵化直後に排除することができるため、巣に残っている自身の卵やヒナを救える可能性を残しているのです。
  アカメテリカッコウの卵には、卵擬態が見られません。卵が似ていなくても宿主に卵を排除される心配がないからなのでしょう。ところが、アカメテリカッコウのヒナは意外にも宿主のヒナに似ているのです。これは、ヒナ擬態をすることによって宿主の親鳥にヒナが排除されるのを免れるための戦略なのかもしれません。

fig1
図1.センニョムシクイの卵(左)とアカメテリカッコウの卵(右)

fig2
図2.アカメテリカッコウのヒナ(左)ハシブトセンニョムシクイのヒナ(右)

騙す方にも苦労はある

 宿主を騙して、楽に子育てをしている「悪者」と考えられがちのカッコウですが、托卵をするというのは意外な苦労があるのです。卵段階の対托卵戦略をもった宿主に托卵するカッコウ類は、卵を似せたり、タイミングを合わせたりする必要があります。それに対し、ヒナ段階の対托卵戦略を持った宿主に托卵するカッコウ類では、孵化したヒナを放棄・排除されないような工夫が必要です。宿主とカッコウの双方で、さまざまな方法を使って自分の子孫を残そうと必死に生きているのです。これからカッコウを見る目が少し変わるのではないでしょうか?【文・徳江 紀穂子(リバネス記者クラブ)】

<参考>
写真提供:立教大学 動物生態学研究室
Davies, N.B. Cuckoos, Cowbirds and Other Cheats. London: T & A D Poyser. (2000)
Langmore, N. E., Hunt, S. & Kilner, R. M. 2003. Escalation of a coevolutionary arms race through host rejection of brood parasitic young. Nature 422:157-160. (2000)
3) Sato, J. N., Tokue, K. T., Noske, R. A., Mikami, O. K. & Ueda, K. Evicting cuckoo nestlings from the nests: a new anti-parasitism behaviour. Biol. Lett. 6:67-69. (2010)
(doi:10.1098/rsbl.2009.0540)
4) Tokue, K. T. & Ueda, K. Mangrove Gerygones Gerygone Laevigaster eject Little Bronze-cuckoo Chalcites minutillus hatchlings from parasitized nests. Ibis 152: 835-839. (2010)


本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。

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