恐るべき冬虫夏草、昆虫の脳を乗っ取るきのこ
生き物の脳を支配し、乗っ取る菌…これは、SFだけの話ではない。
アリに取りつき、その頭部から生えるきのこ、冬虫夏草(虫草)の仲間の、Ophiocordyceps属の一種のきのこは、アリにただ寄生するだけではなく、その思考まで操るというのだ。
このきのこに寄生されたアリは、完全に死亡するまにはでには3~9日ほどかかり、それまではしばらく自分の巣でほかのアリと接触し、エサも食べるなど、いつも通りの生活を送るという。しかし、研究によると、きのこが生え出す時が来ると、ふらふらと歩き回って、ほぼすべてが正午過ぎに、きのこにとって都合のよい、低い位置の葉の裏側に到達し、葉の葉脈に噛みついた状態で停止し、そこで日没に死に至るという。
場所を操るだけでも虫にとっては恐ろしいのだが、時間や場所まで指定されるとは、なんとも複雑なシステムであろうか。
ペンシルベニア州立大学の研究者David Hughes氏は「死んだ場所への到着に相関が見られたことは、注目すべき現象です。(アリを操るだけでも)かなりの離れ業だというのに、さらに複雑な要素が加わっています」と語り、「アリが葉脈に最後に噛みつくのは正午ですが、実際にはアリは日没まで生きています。これは、恐らくアリの頭を突き破って発芽する過程を、涼しい夜の間に行うための戦略と考えられます」と述べている。
さらにHughes氏は42体の寄生されたアリを観察し、そのいくつかを解剖してみたところ、最後に葉脈に噛みついた状態のアリの頭部は、すでにきのこの細胞で充満しており、さらに下あごやあごの筋肉が萎縮していることが分かった。Hughes氏によると「噛みつく動作は、通常の場合だと下あごを開いてから噛みつくという2つの動作が行われますが、寄生された際の最後に噛みつくケースだと、下あごを閉じるだけの動作になっています」。これは、死んでゆくアリのあごの固定がゆるむのを防ぐためと考えられ、きのこは筋肉の中のカルシウムを吸い上げてしまうことで、死後硬直と同様の状態を作り出しているのだという。
日本にも。アリに寄生し,そのアリが枝にかみついてから死ぬという行動をとらせる菌がいる。例えば、コブガタアリタケがそのひとつだ。
冬虫夏草は種類によっては健康食品とされるが、 虫にとってみれば、「冬虫夏草病」とでもいうべき、恐ろしい病気と言えるだろう。
(堀博美/きのこライター 「きのこる キノコLOVE111」(山と渓谷社)執筆 http://spore.sblo.jp/)
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