細胞内で「発車オーライ!」

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駅のホームで電車を待っているとき、貨物列車を見かけたことはありませんか?荷物が入ったコンテナを載せた列車が、レールの上を、目的地へと走っていきます。実は、私たちのからだを構成する細胞の中にもレールを使ってモノを運ぶタンパク質があるのです。しかも、間違えて配達しないように緻密に制御されています。

細胞の内に道あり!

細胞をひとつの工場としてみてみましょう。細胞内では、核から設計図であるDNAを取り出して、その情報をもとにさまざまなタンパク質がつくり出されています。そして、でき上がったタンパク質は決められた場所に輸送されていきます。どこか離れた場所にものを運ぼうとしたら、そこまでの道がないと目的地の場所がわからず、輸送は難しいですよね。
細胞内で道として使われているのは、管状の構造をした「微小管」です。直径約25nmで、核の近くにある「中心体」を起点に四方八方へ伸びています(図1)。微小管の構造自体に方向性が備わっており、微小管が伸びていく方向をプラスと呼びます。細胞内では、この微小管の方向に合わせてプラスが外側と判断し細胞小器官の位置を決めているのです。じつは、この微小管が「モノを運ぶためのレール」としても使われているのです。
図1

レールの上を歩いてタンパク質を運ぼう

微小管のレールをつたってものを運ぶための「モータータンパク質」が存在します。「レールの上を移動する」というと車輪のようなものを想像するかもしれませんが、なんとモータータンパク質は「歩く」のです。
モータータンパク質には「頭部」と呼ばれる球状の部分が2つあり、これが足としての機能を持っています(図2)。まず、頭部が微小管と立体的に組み合わさり、モータータンパク質が進む方向を向くようにくっつきます。次に、エネルギーであるATPを用いて後ろ側の頭部が変形し、微小管から引き離されます。離れた片足はぐるっと前に動いて微小管にまたくっつきます。これを交互に行うことで、モータータンパク質は一歩一歩進んでいくのです。
モータータンパク質のなかには、滑りながら移動するものや運ぶタンパク質の種類が決まっているものなどたくさん種類があります。微小管上を移動するモータータンパク質は大きく分けて2種類あり、細胞の外側(プラス)に向いて歩くのが「キネシン」、中心(マイナス)に向いて歩くのが「ダイニン」です。キネシンの「歩幅」は8nm、0.3~3μm/秒で進むのに対して、ダイニンは歩幅25nm、速度は14μm/秒と、モータータンパク質の中では最も速く歩きます。早歩きなダイニンは、キネシンと比べて複雑なために構造があまり明らかになっていません。運ぶ積み荷の大きさもさまざまで、キネシンの体長の60倍はある5000nmの積み荷を運ぶものもあります。大きい荷物を背負ってよちよち歩く姿を想像してみると、実際に見てみたくなりますね。

図2

ちょっと複雑な配達システム

モータータンパク質は、細胞内だけでなく、細胞外へ向けて突き出ている「一次繊毛」という細胞小器官でも活躍しています。これは細胞の周辺環境を検知するアンテナの役割をもっており、その中心部には微小管があります(図3)。基底小体から微小管が伸びており、細胞内と同じように外へ突き出した方向がプラス、基底小体側がマイナスと方向が決まっています。繊毛内輸送を専門とするモータータンパク質「ダイニン2」を用いてプラスからマイナスへ積み荷タンパク質を運ぶ、すなわち一次繊毛からモノを「運び出す」役割があるタンパク質をIFT-A複合体と呼びます。
図3

 2010年に出された論文に、IFT-A複合体に関するおもしろい発見が書かれています。ものを一次繊毛から「運び出す」はずのIFT-A複合体が、積み荷タンパク質を「運び入れた」のです。IFT-A複合体の役目を逆転させたのはTULP3というタンパク質でした。TULP3はIFT-A複合体と特異的に結合します。しかし、TULP3が存在する場合には積み荷タンパク質が一次繊毛に局在し、欠損した場合は積み荷タンパク質が一次繊毛に現れなくなったのです(図4)。

図4
 TULP3は、積み荷を運び出す役目のIFT-A複合体と結合することで、一次繊毛への輸送を制御していたのです。もしかしたら、TULP3はモータータンパク質「ダイニン2」をバックさせて、いるのかもしれません。

小さな輸送システムはからだに大きく影響する

 細胞内の輸送はかなり複雑で、緻密な制御機構で成り立っています。積み荷が目的地に届かなかったら、細胞レベルではなくからだ全体に大きな影響を与えかねません。たとえば、今回紹介したTULP3やIFT-Aに疾患があった場合、エネルギー代謝の反応がうまくいかなくなり、肥満になるといわれています。
 細胞内に、ものをレールに沿って輸送するシステムが存在し、しかもそれは緻密に制御されている。そのもとで自分のからだがきちんと機能しているのだと思うと不思議な気分になりませんか?大きな荷物を一生懸命に歩いて運んでいるタンパク質の姿を想像すると、なんだか微笑ましくも愛しく感じるのです。【文・永田 麻実(リバネス記者クラブ)】

<参考文献>
1) Saikat Mukhopadhyay. et al. TULP3 bridges the IFT-A complex and membrane phosphoinositides to promote trafficking of G protein-coupled receptors into primary cilia. GENES & DEVELOPMENT 24, 2180-2193 (2010)
2) Bruce Alberts. Essential細胞生物学 原書第2版(2005)
3) Bruce Alberts. Molecular Biology of the Cell 5E(2008)
4) サイエンスチャンネル「二本足で歩く生体ナノマシン~キネシンの最新研究~」

http://sc-smn.jst.go.jp/8/bangumi.asp?i_series_code=I056904&i_renban_code=063


本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。

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