脳の進化の原動力とは?- 米・テキサス大

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哺乳類の身体の大きさに対する脳容積の比率は、爬虫類の10倍もあるという。どうして哺乳類は、これほど大きな脳を進化させる必要があったのか。その原動力となったのは何だったのか。『Science』5月20日号に掲載された論文によると、それはどうも嗅覚の進化と関係があるらしい。

1986年、ジュラ紀から白亜紀にかけての化石が出土することで有名な、中国雲南省禄豊層で見つかった初期哺乳類MorganucodonHadrocodiumの化石を研究していた米・テキサス大学の古生物学者Timothy Rowe氏は、その頭蓋骨の中に納まっていたであろう脳の形を調べたいと考えた。しかし、当時はその貴重な化石を壊す以外に、その中身である脳の形を調べる方法がなかったため、あきらめてしまったという。それから20年、Rowe氏はようやく、化石を壊さずに脳の形を調べることができる良い方法に出会えたのだ。それは、X線によるコンピュータ断層撮影、いわゆるX線CTスキャンという方法だ。

これによって得られた頭蓋骨内空間の形状や脳組織の痕跡から、脳表面の詳細な立体画像を得ることができたRowe氏は、さらにその画像を、哺乳類のルーツと考えられるキノドン類や、6500万年から1億9千万年前まで生息していた他の初期哺乳類の化石、現生哺乳類270種の脳からのCT[スキャン画像と比較し、時代と共に哺乳類の脳の形がどのように変化していったのかを調べた。それらの画像はすべてこちらから見ることができる。

その結果、2億5千万年ほど前に生息していたキノドン類と1億9千万年前頃生息していたMorganucodonの間で、脳容積は1.5倍ほど大きくなっており、さらにMorganucodonに遅れること約1千万年後に現れた、現生哺乳類に最も近縁なHadrocodiumではさらに1.5倍大きくなっていた。そして、その中で特に巨大化していた脳の領域というのは、嗅球や嗅覚皮質といった、嗅覚の情報処理に関わる場所だったのだ。この巨大化はさらに継続し、現生哺乳類の直接の祖先が現れた6500万年前頃には、嗅球へ嗅覚刺激を送る入り口である嗅覚神経の領域が10倍以上拡大したことが、鼻の骨の大きさによりわかった。

ではどうして嗅覚に関連する脳の領域が拡大したのだろう?実は、今回の研究では、嗅覚に関連する領域以外に、体毛からの触覚刺激を処理する領域、知覚と運動機能の統合に関連する領域なども拡大していた。これらのことから、恐らく、当時食物連鎖の最上位に君臨していた恐竜たちから逃れるため、夜行性の生活を余儀なくされた哺乳類の祖先は、暗闇で役に立たない視覚の代わりに、嗅覚や触覚、あるいはすばやい運動能力などを発達させる必要があったからではないかとRowe氏は述べている。脳は、最初から「考えるための道具」として進化したのではなかったようだ。

(神無 久:サイエンスあれこれ

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