アルマジロに御用心、ハンセン病菌を媒介し人に感染させる危険性

アメリカ南部の州には、野良犬ならぬ野良アルマジロが多数生息している。裏庭、縁側、道端などどこでも普通に見かけるという。でも可愛いからといって、あまり濃厚なスキンシップは避けた方が無難かもしれない。『The New England Journal of Medicine』の4月28日号に掲載された研究報告において、アルマジロは、ハンセン病菌を媒介し、人に感染させる危険性が指摘されたのだ。

ハンセン病は、ライ菌(Mycobacterium leprae)によって引き起こされる感染症で、末梢神経障害および特有の皮膚症状が特徴である。ライ菌は比較的低温の環境(30-33℃)を好むため、自然環境下では人以外に、霊長類とアルマジロ(ココノオビアルマジロ)にしか感染しない。ライ菌は、人工培養もできないため、かつては、ハンセン病の研究にはもっぱらアルマジロが使われていた。

このようなことから、アルマジロが自然環境下でも、ライ菌を媒介する可能性は以前から疑われてはいたが、それを証明することは難しかった。というのもハンセン病感染者自体の数が極めて少ないからだ。例えば、アメリカでは年間150人ほどがハンセン病と診断されるが、旅行先とかではなく、居住地域で感染したと考えられるのは、その内わずか30-50人程度だという。

そこで、米ルイジアナ州立大学・国立ハンセン病事業センターと、スイス連邦工科大学ローザンヌ校・グローバル・ヘルス研究所の研究者らは、アメリカ南部の5つの州(アーカンソー、アラバマ、ルイジアナ、ミシシッピー、テキサス)で捕獲したアルマジロの一匹から見つかったライ菌と、3名のハンセン病感染者の皮膚から採取したライ菌の全ゲノムDNA配列を解読した。その結果、これら4つのライ菌のゲノムDNAは、基本的に一致し、これまでアジアやブラジルの患者から見つかったライ菌とは大きく異なる新種であることが明らかとなった。

さらに、このDNA配列の違いを利用して、より多くのサンプルを調査した結果、アメリカ南部で捕獲された33匹のアルマジロの内、28匹のもつライ菌と、同地域に住む39名のアメリカ人感染者の内、25名のもつライ菌も、この新種であることが判明した。同じ型のライ菌を、同じ地域に住む人とアルマジロが共通に持っていたことから、ハンセン病は人獣共通感染症であることがわかったのだ。

今から500年ほど前にヨーロッパ大陸から移民がやってくるまでは、アメリカ大陸にハンセン病はなかった。しかし、現在ではアメリカ大陸に生息するアルマジロの実に15%がライ菌に感染していると考えられている。さらにアルマジロは、その症状が顕在化するほど長く生きられないため、見た目では感染の有無を区別できない。

これでは、怖くてアルマジロに近づけないと思うかもしれないが、ライ菌は感染力が弱いため、免疫力の強い成人の場合、感染しても95%は発症しないと言われている。また、仮に発症したとしても現在は薬剤により完治できるので、それほど恐れる必要はない。ただ、アルマジロを自分で調理したり、皮を剥いでカウボーイブーツを作ろうなどとは思わないほうが賢明だ。その体液や生肉に直接触れることが最も危険だからだ。たとえアルマジロ料理が大変美味で、テキサスやその周辺の州の名物だとしても。

(神無 久:サイエンスあれこれ

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