結核と毛皮貿易 – 米・スタンフォード大学

WHO(世界保健機関)の報告によれば、現在世界の人口の約3分の1が結核菌を保有し、毎年900-1000万人の新規罹患者が生まれ、2009年には170万人がこれによって死亡したそうだ。このように、今や世界中に蔓延している結核菌だが、決して最初からそうだったわけではない。大航海時代にアメリカ大陸からヨーロッパに伝わった梅毒のように、結核もまた一地方の風土病が異文化交流に伴って、世界中に広がっていったと考えられる。そんな例のひとつが、今回、米国科学アカデミー紀要4月19日号にて報告された。カナダ先住民たちは、18世紀以降、フランス人毛皮貿易商たちが持ち込んだ結核菌によって広く、そして静かに蝕まれていったというのである。

米・スタンフォード大学の感染症研究者Caitlin Pepperell氏は、長年にわたって、カナダ先住民に広がる結核を研究してきた。あるとき彼女は、これら先住民に広がる結核菌の型が、ケベックに住むフランス系カナダ人保菌者の型と非常に似ていることに気がついた。地理的に大きく隔たっているため、両者の間に接触はほとんどないにも関わらず、両者が保有する結核菌の型がこれほど似かよっている理由は何なのだろう?

実は、歴史的に見ると、両者の先祖が一度だけ頻繁に接触していた時期があった。1710年から1870年までの間行われた、カナダ東海岸ケベックから五大湖を抜け、北端のボーフォート海へと注ぐモントリオール水路による毛皮貿易の時期だ。この水路沿いの先住民は、毛皮取引のため、頻繁にフランス人商人たちと接触していたと予想される。それを裏付けるかのように、同じ型の結核菌が、この水路沿いの州に住む先住民族の子孫と、フランス人毛皮貿易商の子孫と考えられるフランス系カナダ人との間で、共通に見出されたのだ。

この型の結核菌をさらに詳細に解析した結果、最も古い型がケベックのフランス系カナダ人が保有していた菌で、その古い型が遺伝子変異を蓄積しつつ、先住民へと広がっていったその時間的経緯も、水路による貿易の発展の歴史と一致したという。また、その広がり方のパターンは、最初は、100年くらいかけてゆっくりと、静かに少数の先住民の間に広がっていき、その後、19世紀の終わりごろから、恐らく鉄道など水路以外の交通網の発展により、爆発的に広がったことを示していた。

こういう話を聞くと、外国人が怖いとか海外に行くのが怖いという日本人がいるが、心配はいらない。日本は現在も立派な結核の「中度まん延国」なのだ。むしろ心配すべきは、日本にやってくる外国人や、日本人が出かける先々の国だろう。かつてのフランス人にはならないよう気をつけたいものだ。

(神無 久:サイエンスあれこれ

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