痛覚と嗅覚の意外な接点

 

Nature lover

パキスタン北部の3血縁家系に確認された、生まれつき痛みを感じない先天性痛覚障害の一種は、電位依存性ナトリウムチャンネルと呼ばれるタンパク質の異常が原因で生じることが知られていた。この病気は、痛みを感じないこと以外、知能、温度感覚、触感などすべて正常で、くすぐられて感じることもできたという。しかし、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジの痛覚研究者John Wood氏とケンブリッジ大学の遺伝学者Geoffrey Woods氏は、この家系出身の3名(30代)を、さらに詳細に調査したところ、意外にもこの3名はその嗅覚をも完全に消失していることが明らかとなった。

これを受けて、両研究者は、ドイツ・ザールランド大学の神経学者Frank Zufall氏に研究協力を申し込み、上記ナトリウムチャンネルを人為的に欠失させた変異マウスを作製した。すると予想通り、この変異マウスも、匂いを感じなくなっていた。何故匂いを感じられないのかその原因を探ったところ、匂いを検出する神経細胞自体は、匂いに反応しているにもかかわらず、その信号を嗅球と呼ばれる脳の一部へ伝えることができないためであることがわかった。この信号の伝達にナトリウムチャンネルタンパク質が必要だったのだ。

ナトリウムチャンネルは、神経細胞の中にナトリウムイオンを取り込むための穴を形成する。ナトリウムチャンネルの異常により、ナトリウムイオンを取り込めなくなった神経細胞は、次に信号を伝えるべき神経細胞に信号をうまく伝えることができなくなったというわけだ。今回の発見により、痛みの信号伝達と匂いの信号伝達に共通のナトリウムチャンネルが使われていることが明らかとなったのである。この結果は、『Nature』の3月23日付けオンライン速報版に掲載された

余談になるが、痛みを感じないとは何と羨ましいことだと思った読者諸君はいないだろうか。その特殊能力を生かせば、大道芸人として一儲けだってできるかもしれない。ただし、実際にこれをやった、このパキスタンの家系の少年は、14歳の時にとうとう屋根から飛び降りて死んでしまったそうだ。また、匂いがわからないということは、鼻をつまんで食事をするようなもので、味などほとんどわからない。この一族には、不注意で舌を一部噛み切ってしまった者もいることから、味のわからない食事を、舌を噛み切らないように慎重に食べなければならないなんて、やはりそれほど羨ましくもないのではないだろうか。

(神無 久:サイエンスあれこれ

Creative Commons License photo credit: talkingplant

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