黄砂が乗せるもの

 毎日少しずつ温かくなってきましたね。先日は黄砂も見られ、そのせいかコンタクトを入れた目がずいぶんごろごろとしたものです。なんとなく空がかすんでいると、春らしくてのんびりしてしまうのですが、そんな黄砂、実はただの砂ではないのです。

砂なのに酸性雨問題の解決に貢献

 黄砂は、中国の内モンゴル自治区からモンゴル国にかけて広がるゴビ砂漠や、新疆ウイグル自治区に広がるタクラマカン砂漠から、風で運ばれてくる砂です。砂漠地帯で、低気圧などによって強風が吹くと、大量の砂が空中へ巻き上げられます。その際、偏西風が強く、砂が高いところまで運ばれると、西風によってより東へと運ばれていくのです。サイズの大きい砂は次第に落下し、上空1~3km以上にまで達した細かい砂は海を越え、数日間でアジア一円に運ばれます。さらには太平洋を越えて、アメリカにまで拡散されていくのです。
 この黄砂が拡散されていく道筋では、雨の酸性度が予想以上に低いという統計があります。砂が雨の酸性度に関係しているなんてなんとも不思議ですが、それには黄砂の成分が関係していました。
 黄砂の主要成分は、大理石や貝殻の主成分でもある炭酸カルシウムという物質です。この物質は水などの中性の物質とは反応しませんが、酸性雨の原因となる硫酸などの強酸と反応し、二酸化炭素を放出します。

図1

 黄砂の表面には凹凸があり、水分をまとっていると硫酸を取り込んで、大気中の硫酸の濃度を下げる働きをするのです。その結果、中国から日本に渡ってくる過程で、なんと水とは一見無関係に思える「砂」の黄砂が、雨の酸性度を緩和していたのです。

地球温暖化を促している!?

 同じ黄砂と硫酸の話でも、まったく別方面からの見解もあります。こちらは地球温暖化に関する話です。
 先ほど酸性雨の原因であるとご紹介した硫酸ですが、ミスト状で大気中に存在していると、①硫酸単体で太陽放射を反射する、②雲をつくる際に水蒸気を集めて水滴をつくる核の役割を果たし、つくられた雲が太陽放射を反射する、という2つの理由から温暖化傾向を緩和する方向に作用すると考えられています。ところが、先ほど説明したように、大気中の硫酸が黄砂に吸収された結果、割合が減少し、温暖化の促進につながっているのなのではないか、という説もあるのです。コンピュータで行われたシミュレーションの中には、硫酸の黄砂による吸収量は、大気中に存在するうちの半分以上にまで上るという結果を出したものもあります。
 風に運ばれて空を飛んでいる砂が、地球の温度に関係しているかもしれないなんて、興味深いと思いませんか。
 

微生物の乗り物にもなる!

 黄砂と環境問題の関わりについて紹介してきましたが、黄砂が飛ばされることを利用して、なんと黄砂に乗って長距離移動をしている微生物もいることもわかってきているのです。
 微生物の多くは、仮足という部分で周囲の物体に付着することが多くあります。長時間大気中を浮遊する場合もこれは同じと考えられており、その乗り物のひとつとして黄砂は研究されています。とくに長距離輸送において、周囲の環境によるストレスを低減させるために付着する可能性は高いと考えられます。タクラマカン砂漠の上空に浮遊している黄砂粒子には、細菌やカビなどの微生物が多数見つかっており、私たち人間への健康被害も懸念されています。
 事実、マウスを用いた実験では、黄砂に付着する微生物は黄砂粒子自体が引き起こすアレルギー疾患を悪化させることが実証されています。また、黄砂中から発見される細菌が飛来先で増殖し、病気の原因となる可能性も示唆されているのです。

 春の季語でもあり、私たちにとって身近な気象である「黄砂」のことを、ホコリや花粉とあまり変わらないと考えている方も多いことでしょう。ところが、その性質や特性に着目してみると、酸性雨と関わっていたり、温暖化と関わっていたり、さらには微生物の乗り物になってしまっていたりと、「砂」というひと言で表しきれないような一面も持っていました。
 自然現象のひとつにすぎない黄砂ですが、思いもよらない働きを知れば知るほど、なんだかわくわくしてきませんか?
【文・川本 成美(リバネス記者クラブ)】

<参考文献>
1) 岩坂 泰信 著.黄砂 その謎を追う.紀伊国屋書店(2006)
2) 牧 輝弥 他.黄砂バイオエアロゾルに含まれる耐塩細菌群の種組織解析.エアロゾル研究.Vol. 25, No.1 Spring. p. 35-42(2010)
3) 岩坂 泰信 他.黄砂バイオエアロゾル学:大気中を浮遊する微生物.エアロゾル研究.Vol. 25, No.1 Spring. p-4-12(2010)
4) 広島大学 黄砂が酸性雨を中和する過程を解明


本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。

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