文明の利器の裏側に-誤り訂正の理論-
先週は「あ」という文字のデータ「0100001010100000」を例に、送信するデータを実際につくってみましたね。さらには、送信するデータには誤りが生じる可能性があることもお話ししました。今週は予想不可能な間違いをいったいどうやって見つけ、訂正しているのか、見ていきましょう。
誤り発見訂正隊!
先週は、私たちの身近にある通信機器でよく使われる「たたみ込み法」という方法の中でも「岩垂法」という手法を用いて、「あ」というデータを次のように送信用データにつくり変えました。
これがもし、次のように誤ったデータとして受信されたときのことを考えてみます。
この受信データから、先週も使った「岩垂法」の6つの手順を踏んで、一緒に間違いを見つけ、訂正する方法を追って見てみましょう。以下、数字の計算はすべて2進法で行います。
①3つずつに数字をくくる。
②はじめの3つのブロックの下に0を書く。
③4つめ、5つめのブロックは、3つ前のブロックの2番目の数字から自身の3番目の数字を引いた値をそれぞれのブロックの下に書く。
④6つめのブロックは、そのブロックから数えて3つ前、5つ前のブロックの2番目の数字を足して、その1の位の数字から自身の3番目の数字を引いた値をブロックの下に書く。
⑤7つめのブロックは、そのブロックから数えて3つ前と5つ前のブロックの2番目の数字、6つ前の1番目の数字を足して、その1の位の数字から自身の3番目の数字を引いた値をブロックの下に書く。
⑥8つめのブロックは、そのブロックから数えて3つ前と5つ前のブロックの2番目の数字、6つ前と7つ前の1番目の数字を足して、その1の位の数字から自身の3番目の数字を引いた値をブロックの下に書く。
ブロックの下には次のような数字列を書き出すことができました。
実は、受信データが正しければ、確認した数字はすべて0となるはずなのです。(ぜひ一度、先週つくった送信用のデータから数字列を導き出してみてください。)ですが今回は5つ目と7つ目の数字が1になっていますね。
2番目の数字が変わってしまっているときは、3つ後と5つ後のブロックから数字を導き出すとき、その変化に気づくこととなるのです。
同様に、1番目の数字が変化してしまった場合は、6つ後と7つ後のブロックを確認するとき、その変化に気づくことができます。また導き出した数字列の中で1か所だけが0でないとき、そのすぐ上のブロックの3番目の数字自体が変化してしまっていたことが分かります。
あとは誤っていた数字に1を足し、その1の位の数字に改めれば、受信データの誤り訂正は完了です。
データとして送られる数字それぞれに関係性をもたせることで、間違いを見つけ、さらには訂正までもが可能になりました。実はこの間違いを見つけ、訂正する方法は、私たちが普段行っているコミュニケーションと非常によく似た理論に沿っているのです。
誤り訂正にも理論あり
私たちは普段、伝えたい情報の要素しか言葉にしていないのでしょうか。いえ、そんなことはありません。きっと、より相手にわかりやすくなるようにさまざまな言葉を付け足したり、重要だからとキーワードをくり返したりすることもあるでしょう。なんと英語での会話には、70%ものこのような不要な部分が含まれているという説もあるくらいです。私たちは、その中で言葉同士に関係性をもたせることで、重要な情報が多少間違って相手に届いたとしても、相手が自分で間違いを見つけ、訂正することができているようにしているのです。
コンピュータがやり取りする際にも、このように本来のデータがより正しく伝わるように、必ずしも必要とはいえない数字を付加することで、この誤りを訂正可能にする工夫がなされていることは、みなさんも体験してくださったことと思います。
簡単に式にするならば、
(受信されるデータ)=(元のデータ)+(間違いを検出するためのデータ)
というかたちで表せるでしょう。
今回の送信データでいえば、各ブロックの1番目、2番目の数字は元のデータ、3番目の数字が間違いを検出するためのデータということになります。
理論は身の回りにあふれている
電話やテレビ、パソコンをはじめ、私たちの身の回りにはたくさんの文明の利器が溢れています。もはやどれも生活に欠かすことのできないものとなり、便利さを感じることすら少なくなっているかもしれません。「あって当たり前」と思っているそれら電化製品の働きは、今回紹介した誤りを訂正する理論をはじめとするたくさんの理論と、それを実行する回路・部品によって可能となっているのです。
今回紹介したデータの送受信方法では、周囲の電気や磁気の影響を受けてしまう通信において厄介な電波の性質に、「たたみ込み法」という誤り訂正の理論を使うことで対処していましたね。少しでも間違いがあっては動いてはくれない機械のシビアな世界だからこそ、理路整然とした隙間のない「理論」で、免れることのできない間違いを受け入れる「ゆとり」までをもつくり出してしまう。このような機械の中に息づく工夫に、私はびっくりすると同時に、好奇心をくすぐられます。みなさんも身の回りにあるたくさんの機器に目を凝らしてみてください。便利さの裏にあるたくさんの研究者が編み出した理論が、見えてくるかもしれませんよ。
【文・川本 成美(リバネス記者クラブ)】
<参考文献>
1) 岩垂 好裕 著.符号理論入門.昭光堂 (1992)
2) 情報理論とその応用学会 編.情報理論とその応用シリーズ3符号理論とその応用.培風館(2003)
3) 瀧 保夫 著.情報論Ⅰ.岩波書店(1978)
本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。
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