ウイルスが、がんの正体を暴く(1)

ウイルスが、がんの原因?

 ウイルスが原因となるがんがあるなんて少し意外に思う人もいるかもしれませんね。代表的なウイルス性がんとしては肝臓がんや子宮頸がんがあります。「がんウイルス」は、殻タンパクに包まれた核酸(DNAもしくはRNAの場合もある)のゲノム(*1)からなる単純な構造をしています。ウイルスによってはエンベロープと呼ばれる膜成分にさらに包まれています(下図)。これは、みなさんが普段耳にするインフルエンザウイルスなどの他のウイルスと共通の構造です。

ウイルスは単独では増殖できず、宿主細胞のもつDNA、RNA、タンパク質の合成装置を利用してウイルスゲノムと殻タンパクをつくらせることで、増殖します。

「がんウイルス」が他のウイルスと違うところは、遺伝子の異常を引き起こして、感染した宿主細胞をがん化させることです。「がんウイルス」は、ウイルスゲノムの中に、「がん遺伝子」、もしくは宿主ゲノムの「原がん遺伝子」を活性化するDNA配列をもちます。「がん遺伝子」とは、がんを誘導する遺伝子です。一方、「原がん遺伝子」は、正常な細胞では細胞増殖等に関わる重要な指令をしている遺伝子で、その働きに異常を起こすと細胞をがん化させるがん遺伝子に変貌してしまいます。「がんウイルス」は、ウイルス自身のゲノムによって、感染した宿主細胞に遺伝子異常を引き起こさせることで、細胞をがん化させているのです。
ここまで聞いただけだと、「がんウイルス」は、がんを引き起こす要因のひとつにすぎないと思えるかもしれません。しかし、研究の歴史を振り返ってみると、「がんウイルス」の存在ががんの原因究明において大きなきっかけを与えてくれたことが見えてきます。

がんウイルス、下積み時代

 「がんウイルス」研究の歴史は100年前にさかのぼります。1911年、ペイトン・ラウスにより、ウイルスによってがんが発生することが実験的に動物で確かめられました。ニワトリのがん細胞のすりつぶしのろ過液を、別の健康なニワトリに注射すると、がんができたのです。さらに、この新しくできた腫瘍を使って同じことをくり返すと、やはりがんができることが観察されました。
 ろ過装置を通過できない細菌等は除去されているため、ろ過液に含まれる微生物はウイルスだけだと考えられます。といっても、当時ウイルスは生命をもつかのようなふるまいをする目に見えない毒物という意味にすぎず、ウイルスの実体を知る者はいませんでした。しかし、ラウスの実験によって、何らかの感染性病原体であるウイルスが、がんを引き起こすことがはじめて明らかにされたのです。のちにラウス肉腫ウイルスとよばれるようになったこの感染性病原体の発見により、ラウスは人のがんもすべてウイルスによるのではないかと主張しました。しかし、ニワトリでの実験結果が人のがんと関係があるわけがないとされ、当時の科学界には受け入れられませんでした。
 この発見から数十年の後の1958年、ハワード・テミンとハリー・ルーピンがラウス肉腫ウイルスに感染した細胞ががん細胞に変わることを発見したことで、「がんウイルス」研究が再び注目されるようになりました。その後の研究により、ヒトのがんのうち、ウイルスによって引き起こされるのは一部であることが示されました。

 では、「がんウイルス」はどうやって細胞をがん化させるのだろうか。

 この疑問こそが、その後のがん遺伝子発見の第一歩となったのです。
<次週に続きます>

【文・瀬野 亜希(リバネス記者クラブ)】

(*1)ゲノム:DNAに並んでいる全遺伝子を総称して呼ぶ。


本記事は、株式会社リバネスが配信するメールマガジン「リバコミ!」のサイエンストピックスを転載したものです。

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