ウイルスが、がんの正体を暴く(1)

科学の発展の裏には常識を覆す研究あり。がんが、遺伝子の異常によって起こる病気であるということは、今や当然の事実とされています。しかし、この常識もまた、それまでの定説に従わない、「がんウイルス」の研究から生まれたものだったのです。

暴徒と化す細胞

あらゆる生き物のからだは細胞からできています。多細胞生物である私たちヒトのからだは60兆個もの細胞の集合体です。これら気の遠くなるような数の細胞は、すべて同じというわけではなく、それぞれの働きが決まっています。たとえば、筋肉の細胞は収縮し、腸の細胞は栄養素を取り込み、目の網膜の細胞は光を受容します。このように、すべての細胞は、いつ、どこで、どのように働くかを制御されています。さらに、その制御のために、個々の細胞の増殖もまた、きちんとプログラムされているのです。
この増殖プログラムに異常をきたした細胞が、増殖の制御を失い、歯止めなく増殖し始めると、からだの中に腫瘍として現れます。腫瘍に関する区分けで、「良性」「悪性」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これはこの増殖の仕方での判別です。局所的な増殖にとどまる腫瘍は良性とされますが、悪性の腫瘍は、周りの組織の領域にまで侵入し、さらには、リンパ管や血管を通って、体内各所に転移して病巣を広げていきます。この悪性の腫瘍が、「がん」と呼ばれるものです。つまり、がん細胞は、増殖の制御を失い、周辺組織、さらにはリンパ管や血管への侵入、各所への転移という能力を順次獲得してきた細胞なのです。

 このような「細胞のがん化」は、一体どのようにして起こるのでしょうか。タバコやX線、アスベストなど、現在では多数のがんを引き起こす要因が見つかっていますが、これらは共通して、遺伝子の異常を引き起こすことによって細胞をがん化させています。
 すべての細胞は、自身の構造と機能に関する設計図としてDNAをもっています。DNAには、細胞の部品となるタンパク質をつくるための遺伝暗号が含まれており、この部分を「遺伝子」と呼びます。遺伝子は、実際に体内でさまざまな働きを担うタンパク質を通して細胞を制御する「指令書」として機能しています。つまり、細胞増殖の指令をしている遺伝子に異常が生じると、正しい指令が出されなくなり、細胞は制御不能の「がん細胞」と化してしまうのです。
 このような遺伝子の異常を引き起こすことによって細胞をがん化させる要因のひとつに、「がんウイルス」があります。

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