第3の視細胞と青色光

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網膜にあって、光を受け取る視細胞には、これまで色を識別できるが暗さに弱い錐体(すいたい:cone)細胞と、色の識別はできないが暗さに強い桿体(かんたい:rod)細胞の2種類が知られていた。しかし近年、これらに加えて第3の視細胞と認知されるようになってきた細胞がある。光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)だ。ただ、このリンク先のウィキペディアの記載にもあるように、ipRGCはこれまでもっぱら概日リズムの調節が主な役割だと考えられてきた。

ところが2007年、網膜の錐体細胞も桿体細胞もともに失い、50年間盲目だった87歳の女性に青色光を照射したところ確かに明るさを感じたという報告がなされた。この論文に名を連ねるラッセル・フォスター氏が最初に第3の視細胞の存在を報告した1990年代初頭は、非難の嵐だったという。フォスター氏らは、生まれつき錐体細胞も桿体細胞も持たないマウスの突然変異でも、概日リズムは正常であることを発見したのだが、突然変異でもわずかな視細胞が残っていたのではという指摘だ。

ところが2000年に、フォスター氏の弟子であるイグナシオ・プロベンキオ氏が、メラノオプシンという光感受性タンパク質を、網膜神経節層という本来視細胞が存在しない場所に発見すると、この場所に存在する網膜神経節細胞が、それまで考えられていた視細胞と脳をつなぐ単なる中継細胞ではなく、光を感じる視細胞の仲間なのではという可能性が高まり、誰が最初にその証明をするかという過酷な研究レースが始まった。

2年後の2002年、このレースを制したのは、2つの研究グループだった。一方のグループは、網膜神経節細胞のわずか1%の細胞がメラノオプシンを産生し、その神経細胞(ipRGC)は概日リズムの中枢へと投射していることを証明した。そしてもう一方のグループは、ipRGCが確かに光感受性で、青色光に最も敏感であることを証明したのだった。

そして、ここまではipRGCが確かに第3の視細胞であるが、概日リズムの調節に関与しているというだけの結果だったのだが、冒頭の2007年の実験に引き続き、昨年報告された2つの実験結果は、第3の視細胞だけしかもたないマウスでも視覚をもち、第3の視細胞だけ(実際はメラノオプシン)を失ったマウスでは、薄暗い場所での視覚が大幅に低下することが明らかとなった。つまり、第3の視細胞は、概日リズムの調節ばかりではなく、実際の視覚にも寄与していることが示されたのだ。

さらに驚くべきことに、青色光刺激によって、記憶と学習といった脳の高次機能が改善されるかもしれない可能性まで出てきたのだ。例えば、2006年にアメリカで行われた実験によると、夜6時間半青色光を照射された被験者は、緑色光を照射された被験者より、音に対する反応時間が短くなり、集中力が増加したという。日本でも名古屋市立大大学院医学研究科の岡嶋教授らが、青色光の認知症への医学的効果を確かめている。確かにこれらの研究では、第3の視細胞が青色光を受け取ったことによって、その効果が現れたのかどうかは不明なのだが、今後の発展が期待される。

一方で、青色光の弊害も取り立たされている。青色光は白色光より網膜への傷害や概日リズムへの影響が大きいというのだ。省エネのため、青色成分の多いLED照明が主流となりつつある昨今だが、知らず知らずのうちにその影響を受けているかもしれない。このように、第3の視細胞と青色光の関係には、まだまだ解明されていない謎が多いのである。

(神無 久:サイエンスあれこれ

Creative Commons License photo credit: helgabj

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